幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

『モロッコ/アラブ・アンダルスの歌 ― アミナ・アラウイ』

『モロッコ/アラブ・アンダルスの歌 ― アミナ・アラウイ』 
Gharnata Soul, Moroccan Court Music: Amina Alaoui
ザ・ワールド・ルーツ・ミュージック・ライブラリー 26


CD: キングレコード株式会社
KICW 85041 (2008年)
定価1,800円(税抜価格1,714円)

 

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1.私は魅力的なのに、なぜみすてられるの? Li ayyi sabab ouhjar
2.かつて私は、信仰のことなる友を無視した Ode d’Ibn Arabi
3.美しい最愛の人に(ズィダーン旋法による前奏曲) Kam ba’athna (Prelude zidane)
4.おお、しなやかなガゼル! Ya racha fattan
5.今宵、君の悩みをいやす Salli houmoumak
6.我が愛はあふれでる Bah estibari
7.おお、崇高な家柄にうまれた貴人よ! Ya man lahou
8.私には親しい恋人がいる Li habiboun
9.おお、心は君をさそう Ya qalbi khalli as hal
10.ガゼルは好ましい快活な美しさで私を魅了した Wahad al ghoziyel
11.どの大地も、ふみしめるあなたをたたえる Tahia bikoum koullou ardin


アミナ・アラウイ Amina Alaoui (vocal, daf)
アンリ・アニェル Henri Agnel (cithern)
ソフィアーヌ・ヌグラ Sofiane Negra (oud)
イドリス・アニェル Idriss Agnel (zarb, oudou)

Recorded Sept. 13. 2003 at KING SEKIGUCHI-DAI STUDIO, Tokyo.
Licensed by MIN-ON
Cover Design: mitografico
Cover Photo: アミナ・アラウイ(民音提供)


帯文:

イベリア半島に勢力をはったアラブの宮廷文化はアラブ・アンダルシア音楽を花開かせた。
レコンキスタ以降対岸のマグリブの地にその伝統を引き継いだ音楽の粋。」


帯裏:

「アラブというより、ヨーロッパ古楽の香りすら漂わせる。レコンキスタでスペインを追われたイスラム音楽が花開いたマグリブ。歴史を遡るかのようにグラナダへと辿り着いた【モロッコの花】アミナ・アラウイ。彼女こそ、いまに活きるアラブ・アンダルース音楽の証でしょう。シターンの響きがイベリア風です。」
「★2005年発売のKICC-5305と同内容です。」


◆本CD解説(水野信男)より◆

「711年にはじまったイベリア半島イスラーム化は、まもなく半島のほぼ全域をおおいつくした。それに対しレコンキスタ(国土再征服運動)は、10世紀初頭から勢いを増して次第次第に半島南部に達し、13世紀にはコルドバやセビーリャが陥落、追い詰められたムスリムイスラーム教徒)の支配地域は、グラナダをのこすのみとなった。そしてついに1492年、押し寄せるキリスト教徒の大軍をまえに、最後の砦、アルハンブラ宮殿は開場を余儀なくされる。」
「華麗なアラベスクに彩られたこの宮殿の広間で、「ヌーバ」(正則アラビア語では「ナウバ」)が日ごと夜ごと奏楽されていたはずだ。庭におちる幾筋もの噴水の音と溶け合って・・・。」
「ヌーバ(組歌)の系譜は、もともとダマスクスバグダードイスラーム王朝に端を発する。そこではペルシャ音楽とアラブ音楽が共生していた。とくにアッバース朝期にはいると、首都バグダードを中心に、すぐれたウード奏者が次々と出現し、一方でギリシャ語音楽文献をアラビア語に翻訳する学者たちが活躍する。その音楽は、周辺のビザンティン、インド、中国、さらにはスーフィズムイスラーム神秘主義)のそれをもとりこみながら、一層深まっていき、ヌーバという新ジャンルも誕生した。
 さて、ここに登場するのが、ズィルヤーブである。彼はバグダードの宮廷おかかえの音楽家だったが、その卓抜した才能ゆえに師の嫉妬を買い、バグダードを追われ、北アフリカを放浪したあげく、やがて後ウマイア朝の首都、コルドバにたどりつき、その宮廷に迎え入れられた。ときに西暦822年であった。ズィルヤーブはコルドバで、(中略)バグダードからもちきたったヌーバを改良して、ついにアンダルス音楽(アラブ・アンダルシーア音楽)の体系を打ち立てた。そのあたらしいヌーバは、声楽曲と弦楽器主体の器楽曲の組み合わせからなり、声楽曲(独唱曲や合唱曲)には、「ムワッシャフ」というアラビア語文語体による宮廷詩、「ザジャル」というアラビア語アンダルシーア方言による大衆詩(民俗詩)がもちいられた。そこで大成した24のヌーバはいずれも長大で、それらは朝、昼、夜の時間帯にあわせて選択され、宮廷の広間で演奏された。」
「ヌーバはレコンキスタをさかいに、退却するムスリムとともに、海をわたりマグリブにうつされ、歌いつがれた。私たちはその口頭伝承による、薫り豊かなアンダルス音楽を、モロッコテトゥアン、フェズ、ラバト、ウジュダなど、アルジェリアのトレムセン、アルジェ、オラン、コンスタンティーヌなど、それにチュニジアチュニスなど、マグリブの諸都市に息づく伝統音楽として、いまも聴くことができる。
 アンダルス音楽のことを、アルジェリアでは総称して「グルナーティー」(「グラナダの」「グラナダ様式の」音楽)とよぶ。それはかつてグラナダで流行した音楽が、モロッコはおろか、アルジェリアにまでつたえられたことに由来する。」
「アミナさんは1964年、モロッコ内陸部の古都フェズの、古典と民俗の伝統をまもる家系に生まれた。(中略)1983~86年、グラナダ大学で文学・文献学・言語学(中略)をおさめ、その直後から2002年までフランスに滞在、ついで再び、ここグラナダに移住し、いまはこの都市を拠点にして、さかんな音楽活動を展開している。」

「このCDではアミナ・アラウイは、モロッコに伝承されている「グルナーティー」=アンダルス音楽=ヌーバ(組歌)から、いくらかのザジャル(大衆詩・民俗詩)とムワッシャフ(宮廷詩)を選び出して歌っている。
 歌詞はいずれも、ふるいアラビア語詩による。」
「音楽は口頭伝承の旋律をアミナ・アラウイが編曲。とくにザジャルでは、随所に詩のポピュラーな様式に呼応した軽快なリズムがみられる。」


◆本CDについて◆

ブックレットに日本語および英語解説(「グラナダ残照――アミナ・アラウイさんのこと」(水野信男)/「伴奏楽器と伴奏者名」/「収録曲と歌詞」/「Reflections of Granada - About Ms. Amina Alaoui」(Mizuno Nobuo)/「Accompanying instruments and the accompanists」)、写真図版(モノクロ)3点、「ザ・ワールド・ルーツ・ミュージック・ライブラリー」CDリスト。ブックレット裏表紙に写真図版(カラー)1点。歌詞は日本語訳だけで、原文は掲載されていません。

前回紹介した「Moroccan Ensemble Fez」は男声合唱でしたが、今回は女声独唱です。聞き比べると同じ「アンダルス音楽」でもだいぶ違います。こちらはファドやフラメンコに通じるようなポピュラリティを感じさせます。
アミナ・アラウイのCDは、他に、『Alcántara』(Auvidis、1998年)、『Arco Iris』(ECM、2011年)などが出ています。

★★★★☆


Amina Alaoui - Ya racha fattan

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