幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

『ストラヴィンスキー:歌劇「放蕩児の遍歴」全曲』 シャイー指揮/ロンドン・シンフォニエッタ

ストラヴィンスキー:歌劇「放蕩児の遍歴」全曲』 
ディーン(Bs)/ポープ(S)/ラングリッジ(T)/ラメイ(Ms)/ウォーカー(Ms)/他 
リッカルド・シャイー指揮/ロンドン・シンフォニエッタ&コーラス 

Stravinsky 
THE RAKE'S PROGRESS 
Philip Langridge 
Cathryn Pope 
Samuel Ramey 
Stafford Dean 
Sarah Walker 
John Dobson 
London Sinfonietta Chorus 
London Sinfonietta 
RICCARDO CHAILLY 


CD: London 
The Decca Record Company Limited, London 
411 644-2 (1984) [2CD] 
Printed in West Germany / Made in West Germany 

発売元:ポリドール株式会社 
F75L-50014/5 (1984年) [2枚組] 
¥7,500 

 

スリーブケース表。


帯文:

「1951年初演のストラヴィンスキー唯一の本格的オペラ!
新古典的な手法による今世紀を代表する傑作!
特にオペラに敏腕を発揮するシャイーの注目の全曲盤!」


イーゴル・ストラヴィンスキー 
IGOR STRAVINSKY 
(1882-1971) 

歌劇「放蕩児の遍歴」全曲 
THE RAKE'S PROGRESS, Complete 
3幕の寓話劇 
Fable in three acts 
(台本:W.H. オーデン、C. カルマン) 
Libretto by W.H. Auden & C. Kallman 


CD 1 [68:18] 

第1幕 
 第1場
1.プレリュード 0:30 
2.「森は緑に萌え」(アン) 4:30 
3.「おいぼれめ! 五体とも健全」(トム) 2:28 
4.「金があったらな」(トム) 6:32 
5.「御者を呼んで参ります」(ニック) 5:25 
 第2場
6.「威風堂々」(怒号するチンピラたち) 2:30 
7.「さあ、トム」(ニック) 4:38 
8.「私の恋人よ」(トム) 3:26 
9.「太陽は輝き」(女郎たち/怒号するチンピラたち) 2:11 
 第3場
10.「トムからは何の便りもない」(アン) 8:15 

第2幕 
 第1場 
11.「歌を変えろ」(トム) 6:34 
12.「ほんとうの幸福がほしいなあ」(トム)/「ご主人様、お一人ですか?」(ニック) 6:48 
 第2場 
13.イントロダクション/「どうしたことでしょう」(アン) 5:29 
14.「アン! ここだ!」(トム) 2:17 
15.「あなた、私は永久にこの中にいるの?」(ババ) 6:12 


CD 2 [67:00] 

第2幕
 第3場 
1.「私のいった通り」(ババ) 3:49 
2.「私の心は冷え切り」(トム) 6:44 

第3幕
 第1場 
3.「近頃は何と珍しいものが」(市民たちの群)/「破滅、禍い、そして恥辱」(声) 2:40 
4.「やあーっ!」(ゼレム)/「彼がきた! 商売人だ」(群衆) 5:09 
5.「いったい。売り物にされたなんて! えい、くやしい」(ババ) 8:21 
 第2場 
6.プレリュード 2:02 
7.「何とここは暗く気味が悪いのだ」(トム) 4:08 
8.「よろしゅうございます、トム様」(ニック) 8:19 
9.「私が燃える! 凍りつく!」(ニック) 3:34 
 第3場 
10.「勇ましき亡霊どもよ」(トム) 3:26 
11.「この人がそうです」(管理人) 6:33 
12.「静かに、小さな舟が」(アン) 4:54 
13.「ヴィーナス、どこへ行かれました?」(トム) 4:22 

エピローグ
14.「皆様、今しばらくお待ち下さい」(全員) 2:27 


トゥルーラヴ:スタッフォード・ディーン(バス) 
TRULOVE: Stafford Dean (Bass) 
アン:キャスリン・ポープ(ソプラノ) 
ANNE: Cathryn Pope (Soprano) 
トム・レイクウェル:フィリップ・ラングリッジ(テノール) 
TOM RAKEWELL: Samuel Langridge (Tenor) 
ニック・シャドウ:サミュエル・ラミー(バリトン) 
NICK SHADOW: Samuel Ramey (Baritone) 
ババ(トルコ人):サラ・ウォーカー(メッゾ・ソプラノ) 
BABA THE TURK: Sarah Walker (Mezzo-Soprano) 
ゼレム:ジョン・ドブソン(テノール) 
SELLEM: John Dobson (Tenor) 
マザー・グース:アストリッド・ヴァルナイ(メッゾ・ソプラノ) 
MOTHER GOOSE: Astrid Varnay (Mezzo-Soprano) 
管理人:マシュー・ベスト(バス) 
KEEPER: Matthew Best (Bass) 

ロンドン・シンフォニエッタ・コーラス 
(合唱指揮:クライヴ・ウェアリング) 
LONSON SINFONIETTA CHORUS 
(Chorus Master: CLIVE WEARING) 
ジョン・フィッシャー(ハープシコード) 
JOHN FISHER (Harpsichord) 

ロンドン・シンフォニエッタ 
指揮:リッカルド・シャイー 
LONDON SINFONIETTA conducted by RICCARDO CHAILLY 


Recording 
Producer: ANDREW CORNALL 
Assistant Producer: MICHAEL HAAS 
Engineers: JOHN DUNKERLEY, STANLEY GOODALL 
Date: July 1983 
Location: WALTHAMSTOW TOWN HALL, London 


◆船山隆による解説より◆

アメリカで英語の新しいオペラの構想を練っていたストラヴィンスキーは、1947年5月2日、シカゴの芸術研究所で開かれていたイギリスの画家W. ホガース(1697~1764)の風刺と教訓の銅版画「放蕩児の遍歴」(1732~33年)と題された8枚のシリーズを見て、この「放蕩児の遍歴」の物語によるオペラの作曲を決心した。そのオペラの作曲にとり組むためには台本が必要であり、ストラヴィンスキーは、カリフォルニアの友人のA. ハクスレーに台本作者の相談をしたところ、ハクスレーは即座にW. H. オーデン(1907~1973)というイギリスの詩人の名前を挙げた。(中略)ハクスレーが即座にオーデンの名前を挙げたのは、オーデンがすぐれた詩人であると同時に、モーツァルトからヴェルディまでのオペラの熱狂的ファンであり、すでにB. ブリテンと共同の仕事もいくつかしていたためであろう。(中略)ストラヴィンスキーとオーデンの共同作業は、このような形で開始された。二人の最初の往復書簡には、このオペラ作品の特色が端的な形で現われている。つまりストラヴィンスキーは、ワーグナー流の無限旋律とライトモティーフによる「音楽劇」ではなく、18世紀流の明確な調性とナンバーによる「オペラ」を書こうとした。(中略)ストラヴィンスキーとオーデンは、このような同一のオペラ観に基づき、共同作品にとり組み、ニューヨークに住むオーデンがハリウッドのストラヴィンスキーを訪問して、仕事は順調に進められた。オーデンは後に弟子のC. カルマンも仕事に加え、オーデンとカルマンは、ホガースの連作に、新しくニック・シャドウという悪魔を登場させ、ドン・ファンファウストメフィストフェレスの性格をもった物語に仕上げた。」


◆塚谷晃弘による「あらすじ」より◆

「第1幕 第1場 トゥルーラヴの小さな家の庭。時は春の午後、イギリスの田園地方。
 大時代風のファンファーレで幕が開く。アンとトム・レイクウェルが恋の二重唱を歌っている。するとそこへトゥルーラヴが出てきて、父親としての心配を歌い、三重唱となる。レチタティーヴォになって、トゥルーラヴはトムに職業を世話しようとするが彼は拒絶する。トムは一攫千金を夢みるアリアを歌い、「ああお金がほしい」と呟く。するとそこへ誘惑者(中略)ニックが現われ、伯父の莫大な遺産がトムに贈られたことを告げる。アンも父も出てきて、大喜びでシャドウに感謝する四重唱となる。トムはロンドンへ、遺産相続の手つづきに行くことになる。ニックは彼の使用人となるが、1年と1日後にトムはニックに「支払わねばならない」と要求する。」
「第2場 ロンドンの女郎屋マザーグースの家。」
「第3場 再びトゥルーラヴの田園の家の庭。秋の静かな夜である。アンは便りのなくなったトムのことを思い、さびしい心を優しく歌う。そしてついにロンドンの彼のもとに行く強い決心をこめて、カヴァレッタ(小アリア)を歌う。」
「第2幕 第1場 ロンドンのトムの家。トムは都会の快楽に飽いたことを歌う。そして「今度は幸福がほしい」と大声で叫ぶ。ただちにニックが現われ、トルコ女ババと結婚することをすすめる。」
「第2場 ロンドンのトムの家の前の街路。やはり秋である。アンがトムを探してロンドンにやってくる。(中略)がトムは彼女に「自分は彼女に値しないから、どうか家へ帰ってくれ」と頼む。アンはトムに愛の約束を思い出させようとする。そこへババが現われて、一悶着あるが、トムはババを「妻だ」といって紹介するので、アンは諦めて別れる。」
「第3場 トムの家の一室。(中略)トムは満たされない心を抱いて、鬱々として楽しまないが、ババの方は陽気にべちゃべちゃとしゃべって、彼の心を引き立てようとする。(中略)トムはやがてうるさくなって、ババを押しのける。ババは怒りの激しいアリアを歌う。トムはついに彼女の顔にかつらをすっぽりかぶせて黙らせてしまう。そしてぐっすり寝こむ。(中略)ニックはいんちきな機械――石をパンに変える――を彼の部屋にもちこんで操作している。トムは目覚め、夢の中で見たそっくりの機械を眼前にして驚喜する。二人で石を材料に、早速実験してみる。そうしてこの新しい事業に人生を賭けようとするのである。」
「第3幕 第1場 やはりロンドンのトムの家、翌年の春である。(中略)「事業」に失敗したトムの家では、競売人ゼレムがやってきて、家具の競売が始まっている。アンがトムを再びとり戻そうと、探し回っている。(中略)最後に、蜘蛛の巣だらけになってきーきー泣いているババが売りに出される。トムにかつらをかぶされて以来、こんな風に「ふてくされて」いたのである。ババは叫び、かつ歌うが、トムとアンがまだ深く愛し合っているのを認めて、身を引く。」
「第2場 弦楽四部の冷く暗い前奏曲とともに、墓場の情景へ移る。星のない夜。シャドウが恐れに震えているトムに「約束の1年と1日が過ぎたから約束どおり支払え」と詰め寄る。トムは「一文のお金もないから、しばらく暇をかせ」という。ニックは「お金ではない、君の魂を」と自殺をうながす。トムが哀願するので「ではトランプをして、それに勝ったら、もう一度猶予する機会を与える」という。トムは遍歴の果て、やはりアンとの愛を真実と思う心に達しているので、彼女への誠実さを示すことによって三つの答を解決。シャドウは、あてがはずれて怒りながら、トムを放りこむべき墓穴へ、呪いを投げかけて自ら飛びこむ。けれども、ニックの呪いで狂気となったトムは、墓に横たわりながら、子供じみた声で歌う。自分がアドニスになったと錯覚しながら。」
「第3場 精神病院の場。狂気のうちに、彼=アドニスは、ヴィーナスを求めて歌う。(中略)アンが管理人に導かれて、彼を訪ねてやってくる。トムはアンの中にヴィーナスを見出して狂喜する。アンも彼をアドニスと呼ぶ。(中略)やがてアンは懐しい子守歌を歌ってトムを眠らせる。トゥルーラヴが現われ、娘を連れて帰ろうとしてトムに別れを告げる。トムは目覚めてヴィーナス(アン)を求めながら死ぬ。」


◆本CDについて◆

2枚組用ジュエルケース(24mm厚)、三方背スリーブケース(CDおよびケースは西ドイツ製)。ブックレット(本文102頁)にトラックリスト&クレジット、「オペラの復活――《放蕩児の遍歴》について」(船山隆)、「あらすじ」(塚谷晃弘)、「演奏者のプロフィール」(デッカ・インターナショナルの資料から)、歌詞(英語)&対訳(塚谷晃弘)、図版(モノクロ)17点。

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