幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

『プーランク:ぞうのババール/サティ:ジムノペディ、グノシエンヌ、他』  ジャンヌ・モロー(語り)&ルイサダ(ピアノ)

プーランクぞうのババール/サティ:ジムノペディ、グノシエンヌ、他』 
ジャンヌ・モロー(語り)&ルイサダ(ピアノ) 

Poulenc: L'histoire de Babar 
Satie: 3 Gnossiennes, Gymnopédie No. 1, Sports et divertissements 
Jeanne Moreau / Jean-Marc Luisada 


CD: Deutsche Grammophon 
発売:ポリドール株式会社 
POCG-1858 (1995年) 
¥3,000(税込)/(税抜価格¥2,913) 
Made in Japan 

 


帯裏文:

プーランクとサティ。二十世紀初頭のフランスを生きた彼らの音楽は、退廃的でありながらも、洒落ていて、パリ独特の「粋」を感じさせます。ルイサダが紡ぎだす、メランコリックな音色のピアノと、伝説的名女優ジャンヌ・モローのスリリングな語りは、互いによく溶けあって、妖艶な雰囲気を醸しつつ、上質なワインのように心地よく酔わせてくれます。ゆったりした、大人の時間のためのアルバムです。」


エリック・サティ 
ERIK SATIE 
(1866-1925) 

1.ヴェクサシオン 2:32 
Vexations (Pages mystiques, no 2) 
2. グノシエンヌ 第3番 2:43 
Gnossienne no 3
3.ジムノペディ 第1番 3:53 
Gymnopédie no 1 
4.ヴェクサシオン 1:24 
Vexations 
5.グノシエンヌ 第1番 3:10 
Gnossienne no 1 
6.グノシエンヌ 第2番 2:09 
Gnossienne no 2 
7.ヴェクサシオン 1:14 
Vexations 
8-18.スポーツと気晴らし 
 序文/食欲をそそらないコラール 1:39 
 Préface / Choral inappétissant 
 第1曲 ブランコ 0:45 
 1. La Balançoire 
 第2曲 狩り 0:29 
 2. La Chasse 
 第3曲 イタリア喜劇 0:40 
 3. La Comédie italienne 
 第4曲 花嫁の目覚め 0:41 
 4. Le Réveil de la mariée 
 第5曲 目かくし鬼 0:53 
 5. Colin-Maillard 
 第6曲 魚釣り 1:27 
 6. La Pêche 
 第7曲 ヨット遊び 0:50 
 7. Le Yachting 
 第8曲 海水浴 0:33 
 8. Le Bain de mer 
 第9曲 カーニバル 0:44 
 9. Le Carnaval 
 第10曲 ゴルフ 0:46 
 10. Le Golf 
 第11曲 蛸 0:37 
 11. La Pieuvre 
 第12曲 競馬 0:27 
 12. Les Courses 
 第13曲 陣とり遊び 0:52 
 13. Les Quatre-Coins 
 第14曲 ピクニック 0:34 
 14. Le Picnic 
 第15曲 ウォーター・シュート 0:47 
 15. Le Water-Chute 
 第16曲 タンゴ 1:50 
 16. Le Tango 
 第17曲 そり 0:31 
 17. Le Traîneau 
 第18曲 いちゃつき 0:36 
 18. Le Flirt 
 第19曲 花火 0:29 
 19. Le Feu d'artifice 
 第20曲 テニス 0:39 
 20. Le Tennis 
29.ヴェクサシオン 1:08 
Vexations 
30-32.《冷たい小品集》から〈逃げださせる歌〉 
Pièces froides: Airs à faire fuir 
 Ⅰ 4:00 
 Ⅱ 2:10 
 Ⅲ 4:06 
33-35.最後から2番目の思想 
Avant-Dernières Pensées 
 第1曲 田園相聞歌(ドビュッシーに捧ぐ) 1:24 
 1. Idylle, à Debussy 
 第2曲 朝の歌(ポール・デュカスに捧ぐ) 2:00 
 2. Aubade, à Paul Dukas 
 第3曲 瞑想(アルベール・ルーセルへ捧ぐ) 1:15 
 3. Méditation, à Albert Roussel 
26.ヴェクサシオン 1:06 
Vexations 

フランシス・プーランク 
FRANCIS POULENC 
(1899-1963) 

17.ぞうのババール 27:26 
L'Histoire de Babar, le petit éléphant 


ジャンヌ・モロー(語り) 
Jeanne Moreau, récitante 
ジャン=マルク・ルイサダ(ピアノ) 
Jean-Marc Luisada, piano 

録音:1994年7月 パリ 
Recording: Paris, Salle Wagram, 7/1994 
Executive Producer: Roger Wright 
Recording Producer: Arend Prohmann 
Tonmeister (Balance Engineer): Hans-Peter Schweigmann 
Recording Engineer: Hans-Rudolf Müller 
Editing: Stefan Weinzierl 
Cover Photo: Gilles Decamps 
Photo of Artists: Gilles Decamps 
Photos of Satie and Poulenc: Archiv für Kunst und Geschichte, Berlin 


◆井上さつきによる「曲目解説」より◆

「《スポーツと気晴らし》」
「この曲集は、装飾画家シャルル・マルタンの書いた一連の風俗画に、詩画集ふうに、短いピアノ曲を書くという企画にもとづいて1914年に作曲された。依頼主はパリの出版者ルシアン・ヴォージェルで、当初はストラヴィンスキーのところに話が持ち込まれたが、作曲料の条件が折り合わなかったために、サティのところに廻ってきた仕事だった。サティはストラヴィンスキーに対するよりも安く提示された金額が、それでも自分には高すぎる(!)と主張して、さらに値下げさせたというエピソードが残っている。」


◆「ジャン=マルク・ルイサダ、サティとプーランクの録音について語る」より◆ 

「サティの作品に関しては、私はためらわずに《スポーツと気晴らし》と、他に《ジムノペディ》、《グノシエンヌ》、そして録音の間を通してオスティナートのように繰り返される《ヴェクサシオン》からのライトモティーフを選んでいた。この曲はいわば強迫観念的なもので、サティの意図を尊重しようとすれば、その(サティによるところの)「正規の」持続時間、つまり24時間を達成するためにはそれを840回繰り返さなければならないのだ。だから私たちは、ヴェクサシオンを終始バックグラウンドとして使い、ピアニストが別の部屋で弾いているかのようにそれを断片的に取り上げることにした。」


◆「ジャンヌ・モロー、録音について語る」より◆

「サティは私と同じようにフランス人の父とイギリス人でプロテスタントの母を持つという点で私はある程度関心はありましたが、特に彼に引かれるということはありませんでした。《スポーツと気晴らし》はミイのジャン・コクトーの家で見た覚えがありますし、(中略)サティがとても独創的で、お金のために仕事をした人でなかったことも、名声を得た時があったことも知ってはいました。しかしジャン=マルク・ルイサダが私に《ジムノペディ》と《グノシエンヌ》を弾いてくれたとき、私はこの低い声を、エリック・サティの心の声を、やったらよいのではないかと考えたのです。サティというこの男は変人で、おかしい人なので、気に入ったからです。」


◆本CDについて◆ 

ブックレット(全28頁)にトラックリスト&クレジット、訳詩(秋山邦晴矢川澄子)、「このアルバムについて」「曲目解説」(井上さつき)、「ジャン=マルク・ルイサダ、サティとプーランクの録音について語る」「ジャンヌ・モロー、録音について語る」(訳:エムアンドエムインターナショナル(株)/補訂:井上さつき)、「4Dオーディオ・レコーディングとは」、写真図版(モノクロ)3点。

ぞうのババール」(ジャン・ド・ブリュノフ作)のナレーションと、サティのピアノ曲の楽譜に書き込まれている言葉を、ルイ・マル『鬼火』(1963年)等でおなじみの女優ジャンヌ・モローが朗読しています。
ぞうのババール」は、「かあさん」を狩人に殺されたババールが逃げ出して、辿り着いた町でお世話になった「おばあさん」を見捨てて国に戻って、結婚して王様になるという父権的な童話なのでうさんくさいです。
ところで、サティはピアノ曲「世紀ごとの時間と瞬間の時間」の楽譜に「関係者各位へ」として、「演奏中に、この文章(引用者注:楽譜に書き込まれた言葉)を大声で読みあげることを禁ずる。この指定に違反するどのような行為も、その不遜なる態度に対しては、わが正義の怒りを招くであろう。どんな例外も許されない」と記しています。これが「世紀ごとの時間と瞬間の時間」のみを対象とした戒告だとすると、本CDには「世紀ごとの時間と瞬間の時間」は含まれていないのでセーフですが、他の曲に関しても適応されるのであるとするとアウトです。しかしジャンヌ・モローは、「ジムノペディ」をサウンドトラックとして採用してサティ再評価のきっかけになったともいえる『鬼火』の主演女優であるし、サティの生涯唯一の恋愛の相手であったシュザンヌ・ヴァラドンを彷彿とさせる「ファム・ファタル」なので、サティは「身に受けたはずかしめ」(「ゴチック舞曲」第6曲より)を慈悲深く許してくれるのではなかろうか。

★★★★★ 


タンゴ


「タンゴは 悪魔の踊り――悪魔の気に入りの踊り――悪魔は 心を凍らせるために タンゴを踊る――彼の妻も 娘たちも そして召使たちも こうやって心を冷たくする」

 

ぞうのババール